エピソード記憶をご存知ですか。
記憶力に自信がない人、記憶を効果的に定着させ、効率的に学習したい人、必見です。記憶力をアップする鍵はエピソード記憶です。意味記憶や手続き記憶との違いと、記憶力の鍛え方、エピソード記憶を使った記憶術をご紹介します。
「エピソード記憶」について知っていますか?
「エピソード記憶」という言葉を聞いたことがありますか?ひとくちに「記憶」「記憶する」「記憶力」などといわれることが多いですが、実は記憶にはさまざまな区分、種類があるのです。 エピソード記憶は、そのほかの記憶より、長く、強く記憶されます。エピソード記憶を意識して学習することで、記憶力、学習効率は向上します。エピソード記憶を理解し使いこなして、マインドハックを充実させましょう。
エピソード記憶とは?
エピソード記憶とは、「いつ」「どこで」といった問いに答えられるような、自分の過去の経験に関する記憶のことです。自伝的記憶ともいいます。 「昨日、カレーを食べた。」「子どもの頃、あの遊園地に行った。」「大学時代に北海道へ旅行へ行った。」といった個人的経験、出来事(エピソード)の記憶です。
男性よりも女性のほうが優れている
エピソード記憶は男性より女性の方が優れていると言われています。エピソード記憶は感情に関する部分が大きいからです。 バラエティー番組や日常会話で、女性脳・男性脳、右脳・左脳などの言葉を耳にしたことがある人も多いでしょう。左脳は言葉・思考に関係していて男性的、右脳はイメージ・感情に関係していて女性的、という意見です。 これが全面的に正しいわけではありませんが、骨格などと同様に、脳にも平均的な性差があることは事実です。このことから、女性の方が、感情的な記憶であるエピソード記憶が優れているという説もあります。
加齢による影響を受けやすい
記憶力は一般に、加齢の影響を受けやすいです。 ですが強烈なエピソード記憶は、残り続けます。思い出せない、物覚えが悪くなる原因として、加齢の他には、損傷、萎縮、事故、病気、ストレス、薬の副作用なども考えられます。 とっさにモノの名前や人の名前が思い出せない、記憶力が衰えたと感じている人は、エピソード記憶を活用しましょう。加齢などの影響は避けられませんが、記憶の仕組みを学べば、その影響を最小限にできるでしょう。
26歳以下、あるいは60歳以上の人は自動車保険が高いことが多いです。これは若い人と高齢者に無謀な運転をする傾向のある人が他の世代より多い、という統計データに基づきます。 高齢者の場合は、加齢によって視聴覚が衰えること以外にも、脳の認知機能が衰えることと、エピソード記憶も薄まることが原因として考えられます。たとえば20歳で運転免許を取得したとして、80歳なら60年の運転経験を持ちます。 20歳で免許を取得したばかりの頃、高速道路に初めて乗った時こわかった、支払いでもたついて焦った、合流のタイミングがつかめず後続車に申し訳なく思った、そういった記憶は、「運転のエピソード」として、日々の運転経験によって次第に希釈されていきます。
エピソード記憶と意味記憶の違い
ドラマや小説などで記憶喪失の登場人物が「私は誰?」と言うシーンをよく目にしますが、あれはエピソード記憶は失ったけれど、意味記憶は保持している状態です。 「ここは病院ですよ」といわれて、なぜ病院にいるのか、は分からないけれど「病院とはなにか」は分かっている、ということは意味記憶がおおよそ無事であることを示します。
意味記憶とは
意味記憶とは、一般的知識に関する記憶です。教科書や辞書、百科事典、マナーブックに載っているような、身に付いた「知識の」記憶です。暗記も意味記憶です。 単語や数字、概念や事実など、社会全般に通用する客観的な情報の記憶で、学習(ラーニング)はほとんど意味記憶です。カテゴリー記憶ともいいます。 具体的には「イヌは哺乳類であり、イワシは魚類である。」「北に向かって正対しているとき、右側が東、左側は西、後ろは南。」「14時とは午後2時のこと。アナログ時計では短針が2、長針が12を指す。」などです。
エピソード記憶の具体例
まず、わかりやすく「勉強」を例に挙げて説明します。小テストの前に一夜漬け、期末テストの前に丸暗記、受験対策で塾に通います。小テストで満点をとったり、期末テストで赤点をまぬがれたり、志望校に合格したりします。 一生懸命に勉強した内容を、今でも鮮明に覚えているでしょうか。人は、情報の中身を忘れてしまいがちです。しかし、ここで忘れていくのは即席で詰め込んだ意味記憶です。試験までの苦労や合格した時の喜びは、エピソード記憶なので忘れません。
たとえると、朝の挨拶は「おはよう」、これは意味記憶ですが、「火曜日の朝7時、隣人とおはようございますと互いに挨拶をする習慣」は、エピソード記憶です。 また意味記憶の知識は、獲得されたときには、いつ、どこで、だれによって、どのようにしてその知識を得たというエピソード記憶でもあるはずです。 朝の挨拶が「おはよう」だといつ、どこで知ったというエピソード記憶は思い出せなくなっても、「朝の挨拶=おはよう」と意味記憶化して、身に付いた知識の記憶になります。
エピソード記憶と意味記憶以外の記憶の種類
エピソード記憶と意味記憶以外にも、記憶にはたくさんの種類があります。ここでは7種類の記憶の特徴を簡単に紹介します。それぞれの記憶の特徴を掴んで、効率的に学習しましょう。
種類1:手続き記憶
手続き記憶とは、たとえば自転車の乗り方のような、手続きに関する記憶です。ここでいう手続きとは、方法や手順のことです。 「身体が覚えている」記憶と言い換えることもできるでしょう。子どもの頃、歩き方を覚えれば、どうやって歩いているか?を言葉で説明できなくても、身体が傷ついたり衰えたりするまで、歩けます。これが手続き記憶です。
ドラマなどで、記憶喪失の人に、医師がボールペンを渡して記憶の確認をするシーンを見たことがありませんか。 ボールペンは、ノック式なら上部を押し、キャップ式ならキャップを取り外さなくては書けません。あのシーンは、ボールペンの受け取り方や握り方なども含めて「当たり前の生活の動作」、手続き記憶が無事か、を確認している描写です。
種類2:非宣言的記憶
手続き記憶やプライミング記憶、条件付けといった言葉以外の記憶を非宣言的記憶といいます。必ずしも意識的に学習するとは限らず、その知識を自分で説明できるとは限らない記憶です。その知識を自分が持っていることすら、普段は意識しません。 プライミング(連想喚起)とは、連想、ある記憶情報と、その周辺情報など関連する情報が自然と結びつくことです。 条件付けとは、条件反射や迷信行動など、ある刺激、ある出来事を、実際に関係があってもなくても、結び付けてしまう生理と心理です。
種類4:宣言的記憶
宣言的記憶とは、エピソード記憶と意味記憶の2つをあわせた記憶分類です。言葉によって記述できる記憶、といえます。
種類5:長期記憶
長期記憶とは、短期記憶から送られてきた情報が保存される場所です。ほぼ無限のメモリ容量を持つ永続的な記憶です。 上記の宣言的記憶(エピソード記憶と意味記憶)、非宣言的記憶(手続き記憶とプライミング記憶)をあわせた記憶分類です。老化や損傷以外では忘却されづらい記憶です。 つまり記憶の内容によって、宣言的記憶と手続き記憶に区分され、さらに宣言的記憶はエピソード記憶と意味記憶に区分できます。対義概念は「短期記憶」となります。短期記憶を一時的記憶、長期記憶を二次的記憶ともいいます。
種類6:短期記憶
作動記憶(ワーキングメモリ)ともいいます。感覚記憶に入力された情報のなかで、注意を向けられた情報は符号化され、一時的に短期記憶に貯蔵されます。 短期記憶は反復をやめるとすぐに忘却してします。情報をとどめるためには、単純にそれを反復し続けなければいけません。またそのメモリ容量は、7±2チャンク程度と言われています。
チャンクとは
チャンクとは、数字や文節など、一つの意味を持つ言葉の塊(アイテム)です。つまり大抵の人は無意味なアルファベットの綴りを5~9個しか記憶できません。しかもすぐに忘れます。 たとえば現在の電話番号は、国内通話を示す「0」、市外局番2~4桁、市内局番2~5桁、加入者番号4桁で構成されます。短期記憶に優れる人以外は、打ち込むとき、メモをするとき、9~10桁の番号を途中で切って一時的に記憶します。
短期記憶とチャンク
またワンタイムパスワードも短期記憶とチャンクが考慮されています。送られてきた6桁の番号を口の中で繰り返しながら、打ち込んだ経験はありませんか。 あの数字は、大抵の人が反復している間は記憶できる6チャンク(6桁の無意味な数字)です。打ち込み、ワンタイムパスワード認証が済めば、反復しなくなるため、すぐに思い出せなくなります。
種類7:感覚記憶
人間の記憶は、保持時間の長さによって、感覚記憶、短期記憶、長期記憶に分けられます。 感覚記憶とは、感覚刺激を感覚情報のまま保持する記憶です。知覚し、受容した情報の最初の処理段階です。視覚情報(見たもの)なら1秒以下、聴覚情報(聞こえた音)なら4~5秒程度、そのままの形で短時間保持します。
たとえるならスマホ画面です。このページの画像を自身の端末にとり込むには、名前を付けて保存する必要があります。しかし保存していない画像も一時的には端末のなかにいます。 感覚記憶は瞬間的には無限の容量を持つともいわれています。聞き流すだけの英会話CDなどはこの感覚記憶のキャッシュを無意識へとインストール(刷り込み)させる仕組みで、速習を実現します。
エピソード記憶が強い人は「ネタバレ」を嫌う
エピソード記憶が強い人は、視聴した瞬間に強い感情を抱きます。「初見でどういう感情を抱いたか」を最重要視するので、ファースト・インプレッションという楽しみを台無しにするネタバレを嫌う傾向にあります。 そして人は、先に得た情報によって、後に得た情報の印象が変わってしまう性質(プライミング)を持ちます。たとえばテレビで大食い番組を見ます。その直前に、世界の飢餓と貧困のニュースを見ていた人と、桜の開花情報とお花見のニュースを見ていた人は、同じ印象をいだくでしょうか。
一度得た情報を、頭から自由に取り除くことは誰にもできません。またネタバレには、先にその作品を観た人の印象が必ず入ります。客観的に記述することを心掛けても、その人の思考や主観を取り除くことはできません。 つまり、ネタバレによって「先入観」を持ってしまうことは避けられません。純粋に作品を味わうためには、ネタバレは邪道といえます。
ネタバレを気にしない人
ネタバレを気にしない人もいます。一つは、意味記憶をたくわえることに喜びを見出す人です。学習に楽しみを見出しているので、ネタバレも学習プロセスの一部として許容されやすい傾向にあります。 あるいは、初見ではあまり感情を抱かず、何度も見たり考えたりして学習とともに感情も湧き起こってくる人もいます。見方を変えたり、考察したりして、作品を一度ではなく何度も楽しむことができるタイプです。 たとえば映画を見るとき、ネタバレによってどこに他人が注目したかを事前に知ることで、映画の「見どころ」を見逃さずに見ることができるといったメリットもあります。
エピソード記憶のほうが覚えやすく忘れにくい
エピソード記憶は、大脳辺縁系がつかさどります。感情と記憶の源(みなもと)であり、脳のもっとも古い部位とも言われています。 大人は意味記憶よりも、エピソード記憶の方が覚えやすいと考えられています。子どもの頃は意味記憶を柔軟に吸収できたけれど、大人になってから記憶力が悪くなった、と感じる人は、エピソード記憶と絡めて覚えることが大切です。
今日からできる!エピソード記憶を使った3ステップ記憶術
今日からできるエピソード記憶を使った3ステップ記憶術を使って、エピソード記憶をどんどん活用しましょう。 知識に感情や思い出を結びつけることで、意味記憶をエピソード記憶にして、記憶力をアップさせます。その方法とは、自分で体験する、反復する、覚えたことを人に話すことです。具体的に解説していきます。
ステップ1:自分で体験する
電話番号を交換したすべての人の電話番号を覚えている人は稀ですが、自宅や恋人の電話番号は、大抵の人が覚えています。 これは、その電話番号の反復と、「自宅」「恋人」といった安心や愛しさといった感情と密接に紐づくエピソード記憶とを連動しているから、正確に記憶されているのです。 自身の体験や感情と、情報(ワーキングメモリ)を紐づけることで、情報はエピソード記憶となり、長期記憶へと保存させます。
ステップ2:反復する
短期記憶をエピソード記憶にするための、反復をしましょう。 短期記憶に情報をとどめる方法は、単純にそれを反復することですが、これは反復をやめるとすぐに忘却してします。またそのメモリ容量は、7±2チャンク程度と言われています。
学校の定期試験では、教科書やノートを繰り返し音読するだけで一定の効果が見込めます。また、小学生の頃、九九を暗唱させられた記憶がある人は多いのではないでしょうか。 見る、聞く、話す、触る、動く、脳を効率的に働かせる方法の王道は、複数の動作や感覚刺激を組み合わせることです。
ステップ3:覚えたことを人に話す
子育てをしていると、覚えたことをいちいち報告してくる我が子を、愛らしく思うことも、うっとうしいと感じることもあるはずです。しかし話を聴いてあげることは、コミュニケーションだけでなく、知育にもなります。 情報の意味やイメージを考え、自分の中でブラッシュアップすることを、精緻化と言います。連想・関連など、他の物事と結び付けて深く理解することで、より記憶は強化されます。
歴史の年号を、数字のまま覚えるのは至難の業です。歴史の流れを理解するか、語呂合わせでおもしろく覚えるか、大抵の人はこの二択です。 人に覚えた内容を話すには、自分の中にその内容を落とし込み、自分なりに理解する必要があります。全体の流れを理解した上で、イメージと関連づけ記憶し、人に話すことで、その知識を完全に自分のものにできるのです。
【上級編】エピソード記憶でさらに記憶力を鍛える方法
そもそも人間はどのように「記憶」をしているのか、について考えましょう。記憶術、記憶力を鍛える、そういった記事や書籍は多数あります。この記事もそうです。 しかし、どの方法がその人に合うか、どの程度の効果があるかは、個人差があります。「記憶力に自信がない」という人は、記憶の段階のどこでつまづいているのか、先に確認しておくとより効率的です。
記憶の3つの段階
記憶は、3つの段階に分けられます。まず、入力情報の符号化、次に、形成された記憶の保持、最後に、保持されている記憶の検索です。見知って、覚えて、思い出す3ステップで記憶は構成されています。 以下の符号化、貯蔵、検索は、もともとは情報工学の用語であり、心理用語の記銘、保持、想起と同じ意味です。
記銘(符号化)memorization
刺激情報を取り入れる段階です。入力情報(インプット)を符号(コード)化し、記憶を形成します。入力された刺激が内的処理が可能な形式に変換(エンコード)され「記憶」として貯蔵されるまでの情報処理を言います。 刺激の物理的特徴の検出や分類などの知覚的処理から、記憶術(記銘の方略)などまで幅広い意味で用いられます。
保持(貯蔵)retention
つまり、「記憶していること」です。文字通り記憶を保ち、記憶を貯めている状態です。記憶において、記銘された事柄が後で想起されるために過去経験が脳内にキープされている段階を指します。 想起される(思い出せる)ということは記憶保持がされているということですが、保持を確認するには想起が必要なので、単体で確認できないため定義することは困難です。思い出は、思い出せないときには記憶にないということであり、思い出しているときには既に想起されている(思い出せている)からです。
想起(検索)recall
想起(検索)とは、記憶からの出力(アウトプット)段階です。記憶された情報のなかから、特定の情報を探して取り出すことを想起(検索)と言います。 検索過程は、予備探索過程(目標とする情報が記憶されているか?かんたんサーチ)、目標とする情報がありそうな記憶領域を探索する過程(ピックアップ)、再認過程(これは求めていた情報か?確認・決定する、チェック)からなる、と考えられています。
エピソード記憶を使って意味記憶を充実させよう
チャンクとは一つの意味を持つ言葉の1項目(1アイテム)、情報処理の心理的な単位です。たとえば、「DOG」という英単語を知らない人には3つの文字3チャンクですが、この英単語を知っている人にとっては1チャンクとして処理されます。 ここで重要なのは、つまり意味記憶が増えれば、7±2チャンクの内容が増えるということです。 失敗したり、恥をかいたりした経験ほど、記憶に残りやすいものです。これは、強い感情を伴うエピソード記憶だからです。不快、恐れ、悲しみ、不安、ヒトの感情は、記憶を強化します。種の生存戦略です。
エピソード記憶を味方にして効率化
エピソード記憶を味方にすれば人は、多くのことを効率的に学ぶことができます。日常のささいなエピソードから、高度で特殊な知識、一般的な事柄から、重要な情報まで、エピソード記憶には膨大な情報が入っています。 経験した自覚、経験した時の感情、その場所、その時期、そこの気温や匂い、エピソード記憶という個人的な情報を用いた記銘、貯蔵、検索こそ優れた記憶力の鍵となります。
たとえば毒キノコ辞典をぱらぱら眺めていても、大抵の人は毒キノコを正確に見分けられるようにはならないと思われます。しかし、毒キノコを食べて大変なことになった人は、その後、決してそのキノコを食べないでしょう。 目に映るものすべてを記憶する人は稀です。大抵の人は、注意を向けたものしか記憶しません。意識的に注意を向けたとき、前頭葉が働きます。同じものを見ても、人によって見え方は違います。 知覚した情報は気付かない間に取捨選択されています。脳の選択が、見るものを決め、脳が世界を作ります。
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